よみもの

vol.1 松村忠祀さん

2004.11.07  by

粋な和服姿にオシャレな帽子、トレードマークの黒い眼鏡の奥にあるのは優しい笑顔。国内であろうと海外であろうと、その素敵なスタイルを崩すことなくパワフルに飛び回る松村さんは、三国の海に浮かぶ雄島を代々守る大湊神社の宮司であり、福井市美術館館長という顔も持つアートプロデューサー。その個性溢れるユニークなお人柄の原点にあるのは、三国の海や雄島の豊かな自然たち。ならば、三国を知るには、まずはこの人に会わなければ!ということで、第一回目は松村さんにお話を伺ってきました。

海から名付けられた「げんたつミュージアム」

 爽やかな潮風が吹く秋晴れの朝、向かったのは海のすぐそばにある大湊神社。社務所であり自宅である家に着くと、やはりいつもの和服スタイルで出迎えてくれました。きゃあステキ☆そして玄関上に目をやると、飛び込んできたのは「げんたつギャラリー」という文字。そう、なんと自宅がギャラリーになっているのです!神主である一方で、福井のアートシーンを引っ張ってきた第一人者の松村さんならでは。ご自宅に作ったギャラリーにお邪魔しました。

 “げんたつミュージアム”の“げんたつ”とは、海の沖合にある瀬の名前。魚がたくさん穫れる漁場から名付けたのだそう。西の窓から東の窓へと海風が流れてくる吹き抜け空間のイメージは、げんたつの海。囲炉裏を囲むようにして飾られたコレクションは、まるで海をスイスイと泳ぐ魚のように見えてきます。 古いものを残したいと、築200年近い家を生かして改装された和の空間は、居心地良さ抜群!そこに飾られているのは、ゴヤ、ルオー、ピカソ、小野忠弘、森山大道などなど、そうそうたる作品ばかり!す、すごい!すごすぎて、よく分かんなくなるくらいすごい!そしてもっとスゴイのは、その作品の下に添えられている「すごい」「なるほど」「うまい」という言葉たち。普通なら、作家や作品名を揚げるもの。それを省きあえて記された言葉には、誰もが分かりやすく作品を楽しめるようにという想いが込められています。形式にとらわれない松村さん独特のスタイルに、あっという間に魅せられちゃいました。でも、そもそも神主でありながら美術に携わるようになったのはなぜ?

「“今”を考えなければ。いまを、現代をとらえていきたい。」

 その答えは、松村さんの人生観にありました。書を頼まれると「日々」と書き、講演も過去のことは語らない、『今』のことを語ると言う松村さん。“今”という瞬間が、自分とどう関わっていくか。ここに松村流の美意識があり、それが美術、芸術へと繋がっているのです。「大切なのは、『今』と自分がどう関わっていくかということ。いまを、現代をとらえていきたいんですよ。今の瞬間に考えたことを明日に繋げていきたい。」

 そんなわけで昔は、
「今、自分にとって仕事に行くよりこっちに行った方がいい!」と思い立ち、仕事をさぼり出かけてしまうことも多々あったとか!?いいんですかぁ!?でも松村さんだと、それが素敵な行動に思えるから不思議です。なぜかしら?(笑)その破天荒なキャラクターの奥に秘められている“いま”を愛し生きる姿勢は、何だかとっても大切なことを教えてくれている気がします。そうだよね、“今”なんだよね。いまを生きているんだもん!

 そして、松村さんの「今」を見つめる目は、館長をされている美術館にも注がれていました。福井市美術館では子供を対象にしたアートセミナーやワークショップが目白押し。 「美術館は子供に夢を与えるためにある。芸術家、学者、法律家。たくさんの可能性が子供にはある。だからこそ、出会いを多く与えてあげたい。」美術館での仕事に込められた想い。その土台にあるのは“文化”だと松村さんは語ります。 「心が豊かになるために文化があり、だからこそ夢を持って生きていけるんですよ。文化がなかったら、明日に対する夢が子供に伝わらない。土台になるのは、文化。その為に美術館があり、博物館があり、音楽堂があり、体育館があるんですよ。」 つまり、生きていくことの土台となるのが文化なのだと。土台に文化があり、心を豊かにしながら人生の足跡を残していく。これが、松村さんの生き方そのもの。 「それには『田舎』がいいんですよ。田舎にはそのままの自然があり、そのままの大地があるから。」

 海のそばで暮らし、三国で生きている松村さんにとって、自然に囲まれた田舎での暮らしは文化の発信地なのです。

田舎には大地があるから

 自然豊かな海のそばで大地を感じながら暮らしていると、大地の存在は大きな意味に気付きます。“大地”に話題が及ぶと話は相撲へと移り、テーブルで円を描きながら、相撲の土俵について面白い話を聞かせてくれました。 「相撲の土俵の円は、女性の子宮なんですよ。これが宇宙なんです。しかし古代の人、韓国の人は、この丸(土俵)より、もっと大きな宇宙があると考えた。それは外側の大きな四角で、これが大地。大地が宇宙を支えている。そして大地の四隅には、魔物が入って来ないように四天王が守っている。東西南北の角から魔物が入るのを防ぐために。」

 言葉に従って円を囲むように四角の線を引くと、あ、ほんとだ!相撲の土俵になっている!なるほど、相撲の土俵には、そんな意味があったのか!驚きです! 「そして(土俵周りの)藁は一年を表している。藁は一番早く腐り土に戻って、翌年には米になる。そのシンボルなんです。だから神社のしめ縄も藁なんですよ。この円の中で相撲を取るというのは、男達が大地を踏んで命を入れるということ。田舎には、この大地があるからいい。僕らは藁と一緒で、大地に帰っていくもの。やがて大地に戻るために大地を踏んで、そこから湧いてくる水を飲み、大地のものを体に入れて、大地と自分が一緒になる。田舎ならそれが出来る。特に雄島は、そういう意味でもいい場所です。」

雄島は生きていくためのことを教えてくれる

 「昔のまま、そのままの雄島を守っていく。そういう意味で僕は生まれてきているんだろうと思います。あの島で呼吸することが、自分にとって一番大切。雄島は生きていくためのことを教えてくれる。風が吹けば木が揺れる、その命の佇まいが素敵なんですよ。」  人間の手によって作られたものではなく、ありのままの姿をした雄島は、いわば宇宙の縮小。人間も時を感じながら、雄島のような世界で生きていきたいと松村さんは語ります。そして広い海は心を和ませてくれ、季節感をどこよりも早く教えてくれるもの。その季節を運んでくれるものの一つは“風”なのだそう。

 「干し魚を食べると分かりますよ。」と松村さん。ん?どういうこと?  海に浮かぶ雄島は、神の島と地元の人に崇められ愛され続けている素敵な島。今もなお原生林が残っていて、私にとっても大好きなお散歩コースだったりします♪すごく気持ちがいいの!そんな素敵な島を宮司として守っていくことは、松村のもう一つの大きな仕事。松村さんにとって雄島はどんな存在なんだろう?雄島について尋ねると、すぐに返ってきたのは、「あの島は無垢の島だから。」という言葉でした。無垢の島!すごくぴったり!

風の味を食べる=風味、火は7人の友達

 干し魚とは、魚を風にさらして作るもの。だから、地元で“あいの風”と呼ばれる冷たい風が吹く時は、“あいの風”の味になる。西風に吹かれた干し魚は、西風の味になる。つまり干し魚を食べるということは、『風の味』を無意識に味わっているということ。「風の味」、つまり「風味」とはそういうことなのだと。 「そうやって自然を楽しんでいくうちに、365日が流れていくんですよ。」

 海のそばでは、季節や時間によって様々な風が吹きます。この風が味をつけた干し魚をげんたつミュージアムの囲炉裏であぶり、季節を味わう。この空間は、人間に味をつけていく場所。地元の漁師さんも美術関係の人も、都会からも外国からも、様々な人が集い酒を酌み交わし、この場所でひとときを過ごすのです。 「皆がここに来て集まって、意味のないことを語り合って過ごせばいい。田舎にある空間だからこそ、本物の品のいい作品だけを飾っておきたいんです。」

 その言葉に頷きながらギャラリーをぐるりと見渡すと、青みを帯びた存在感のある大きな石が目に飛び込んできました。これは、えび漁の時に網に引っかかり上がってきた石を、漁船より譲り受けたものなのだそう。おそらく数千年もの間、深海の底に眠っていただろう石が、本物という言葉がふさわしい美術作品と並んで飾られていました。その石の美しさに、思わずうっとり。都会にはない、田舎だからこその時間が、ここには流れています。 「都会で出来ることは都会に任せておけばいい。田舎に居を構えながら、世界中の人と出会うこともできる。そして都会の人がここを訪れた時、彼等を癒してあげたい。その場所が必要だし、その場所の一つが三国であり雄島なのだろうと思います。」

 そう話しながら、まだ火が焚かれていない囲炉裏に目をやると、松村さんは穏やかに笑いました。 「火を見ながら過ごすことは、友達が七人と一緒に過ごすのと同じようなものなんですよ。」 火を見ていると飽きないもの。火は話し相手になり、優しい友になり、時には激しく怒る友となる。それはまるで、七人の友達と一緒に過ごしているようなもの。そんな柔らかな囲炉裏の火を眺めながら魚をあぶり、酒を酌み交わし、季節を楽しむ。人や美しさや瞬間に出会いながら、時間を重ねて生きていく。他のどこにもない、雄島の近くだからこその時の流れが、ここには確かにありました。大きく優しく強くて美しいものが、ここに詰まっている。そう言えば私、初めてここを訪れた時、なぜだかウルウルしちゃったなぁ。不思議な懐かしさと安心感に満たされて、ウキウキした予感に包まれたっけ。松村さんのお話を聞いて、その理由がなんとなく分かった気がしました♪

 「さて、そろそろ…。」 とても面白い話に聞き入っていたら、アッっという間に時間が過ぎていました。気が付けば、松村さんが美術館へと出かける時間。「いってらっしゃいませ!」と見送らせて頂きました。その後、私が海の近くをお散歩したのは、言うまでもありません。それにしても、第一回目からこんなに魅力的な人に出会っちゃうなんて。三国って、面白いかも!

松村忠祀(まつむらただのり)さんプロフィール

大湊神社宮司。
福井県三国町出身。国学院大学文学部神道学科卒業。京都府上加茂神社に出仕。福井県立図書館司書、福井県立岡島記念美術館学芸員、福井県教育庁文化財調査員、福井県立美術館学芸員、同学芸課長を経て1997年より福井市立美術館館長。三国町雄島神社の宮司。

page top

HOME

おうちでも三国湊 おとりよせ WEB SHOP

魅力づくり・にぎわいづくり・まちづくり

味・三国湊きたまえ通り
ジェラート&スイーツ カルナ
三國湊座
カフェ タブノキ
ツーリズム
街中散策・レンタサイクル・クルージングは一般社団法人三國會所のWebサイトへ
文化・歴史・アートへのとりくみ
イベント・シンポジウムなど
アートプロジェクト
三国湊の路
上映会・お芝居
日本風景街道
「三国湊のまち・海・みどり・そしてひとを結ぶみち」
エコへのとりくみ
三国湊こどもエコスクール・
WSなど
みどリレー
ナホトカ号重油流出事故から10年「三国湊型環境教育モデルの構築・普及活動」
ものづくり
荒磯染
陶芸ひとひろ

よみものページ

歴史文化・自然
三国の魅力:特集記事
連載・コラム
つれづれダイアリー
Hanaちゃんのみくにな理由
コマイヌソムリエ
NPOメンバーBLOG
Mr. Uede BLOG
三国湊自惚鑑・新"ほやとこといの"
Mr. Kasashima BLOG
越前三国湊の散策日記
Mr. Sumi BLOG
musicマスターのつぶやき
お知らせ
お問い合わせとアクセス

三国湊魅力づくりPROJECTについて