ナホトカ号重油流出事故から10年-三国湊型環境教育モデル構築・普及活動-

活動レポート 第1回目「森の健康診断」

2008.02.13  by


集合場所の東尋坊に集まる参加者と講師の先生方

  • 日時:2008年2月11日(月・祝日)14:00〜17:00
  • 場所:東尋坊〜藻取り浜の荒磯遊歩道/コナラを中心にした雑木林/ヤブニッケイを中心とした常緑樹林
    枯れたマツの伐倒跡地
  • 講師:樹木医 井上重紀氏/福井県海浜自然センター(次長) 多田雅充氏/日本植物分類学会 石本昭司氏
    福井県自然観察指導員の会(会長) 北川博正氏/日本植生学会 八木健爾氏
    福井県自然保護センター 平山亜希子氏

深刻なマツ枯れに見舞われる三国の里山に緑をふやしたい—そんな願いをもった「三国湊 緑のリレープロジェクト」。冬の日本海では稀に見る晴天に恵まれた 2 月11日、総勢40名が集まった東尋坊から、人と他の生きものの賑わいをつくり出し、次の世代へリレーしていく試みがスタートを切りました。

第1回目の活動は「森の健康診断」。誰でも出来るこの活動の目的は2つ。里山の現状把握と、森づくりプランの基礎資料を作成すること。海岸線沿いのマツ枯れの様子を確認した後、3つの異なるタイプの森林—コナラを中心にした雑木林、ヤブニッケイを中心とした常緑樹林、枯れたマツの伐倒跡地を、6つのグループに分かれて調査。植生と林の混み具合を樹木医の先生や自然観察指導員の専門家に解説していただきながら作成しました。 この調査がもたらした一番のものは、情報化しきれない里山と人との出会いの場をつくることであったかもしれません。参加者の皆さんからは、「新鮮な視点で森をみるよい機会となった」「森や樹のかたちから以前とこれからの森の姿が推測できるのに驚いた」という声とともに、「協力して活動したい」「恒常化してほしい」といった今後の活動への期待が寄せられました。

今後、第1回の調査結果をもとに森づくりプランを作成し(第2回)、プランから植樹や下草刈り・除間伐などの活動(第3回)を実施していきます。このように「調査→計画→手入れ」のステップを踏むことで、地域住民によって継続可能な里山手入れの手法を確立していきたいと考えています。

東尋坊〜藻取り浜 荒れたマツ林散策

「ここのマツ林はおそらく製塩用につくられ管理されていたのだと思います」と講師の井上先生。マツと人の関わりについて解説いただきました。 「ここがマツ林だったと思われるのは、古墳時代以降、朝鮮半島からマツが入ってきているとする考古学の研究があるからです。花粉を調べると分かるのですが、瀬戸内海を中心に入ってきたようですね。 マツは油気が多く、火力もあります。そこでマツが製塩に利用されてきた。製塩が科学的に行われるようになって、今度は薪として利用されるようになった。けれどもしばらくして薪はプロパンに代わりました。ですからマツ林は放置されるようになったんですね。 マツそのものは砂浜とか単純な土壌を好みます。今私たちがいるこの場所のように落ち葉が溜まりだすと、今度は腐敗菌が入り込んでマツの根っこを痛めるんです。こうした要因が重なりますと、せっかく大きくなったマツも非常に弱ってくる。そして日本では長崎に140年ぐらい前から、福井県には1953年ぐらいからマツノザイセンチュウが入りました。これは防ぎようがないものです。というのは、本来この土地に生息していた虫じゃないので天敵がいないのです。農業をやっている方は、最近イネミズゾウムシなどの外来種が入ってきたことをご存じでしょうけれども、天敵がいない虫は防除がとても難しい。例えばこのマツの葉は、人間の目で見てまだ青いといっても、皮を剥ぐとすでにゾウムシなんかが入っているのです。 個人的には、ここのマツ林はもともとこの土地に合った林に導いていったほうが健全となり、本来の姿を取り戻すんじゃないかと思います。本来の姿というのは、照葉樹林という、葉っぱの照る木でできた林のことですが、これに戻していったほうがいいのではないかと思うのです。」


東尋坊の荒磯遊歩道


松が枯れているのがわかります


松枯れの遊歩道を歩いていくと森から流れる小川にぶつかり、それを伝っていけば海岸に辿り着きます。


藻取り浜と呼ばれるこの場所には、縄文時代に製塩が行われていました。

森の健康診断開始!

10m×10mの調査地

グループに分かれて各調査場所に向かいます。調査はどのように行われたのでしょう?

●Dグループの様子です。

これ何だか分かりますか?と講師の先生。マツの種です。指の先にちょこんあるのが種で、その他は大きな翼のようなもの。これでひらひらと風に乗って飛んでいくんです。



「植生断面図」と「樹冠投影図」を書いていきます。葉の裏が白いのがシロダモ。3本の主脈がはっきりしているのがヤブニッケイ。はっきりしていないのはタブノキ。これらがここにある高木です。


左:高木層/真ん中:葉っぱがギザギザなヒメアオキ/右:ヤブラン


どちらもヒサカキ

山間なら低木層に入るヒサカキが亜高木層にもあるのは、雪の少ない三国ならでは。山間部だと雪の重みで成長できないのです。

「野生のヒイラギは珍しい」

フキノトウには雄と雌がある


調査終了して集合地に向かう道すがら、自然と眼が植物を追っています。

「森の健康診断」結果発表!

フィールド1 コナラを中心とした雑木林
●Aグループ

1. 高木層:コナラ(9)・エゴノキ(1)・マツ(枯)(1)
2. 低木層:ヒサカキ(5)・ヒメアオキ(5)・タブノキ(1)・シロダモ(3)・イボタノキ(1)
3. 草本層:ネザサ・ヤツデ(1)

○調査結果から
1. コナラを中心とした落葉樹林である。
2. かつてマツ林だったがマツが枯れて落葉樹が高木層を占めている。
3. しばらくは落葉樹林を維持するが、常緑樹が低木層にあり自然遷移すれば常緑樹の森になる。
4. 調査枠中央のコナラ2本の樹冠は周囲のタブノキ・コナラの樹冠と接している。林内の木と木の混み具合は高いといえる。草本層も2種類しかなく、地表まで光が届きにくい。

●Bグループ

1. 高木層:コナラ(6)・エゴノキ(1)・ウワミズザクラ(1)・サクラ(1)
2. 亜高木層:ソヨゴ(1)・コナラ(4)
3. 低木層:ヒサカキ(2)・コシアブラ・ガマズミ・サルトリイバラ
4. 草本層:マルバグミ・ガマズミ・サクラ・ヒサカキ・シロダモ・ヤブラン・ヤブニッケイ・ネザサ・クマザサ・ジャノヒゲ・ヤマツツジ・ヤブコウジ・ヒメアオキ・シダ類

○調査結果から
1. もとマツ林で、今はコナラを中心とした落葉樹林。
2. マツが枯れてなくなった後、低木層に常緑樹が生え始めた。
3. 低木〜草本層に常緑樹がありAグループに比べ樹種は多いが、自然遷移すれば常緑樹林になる。
4. 調査地の奥は亜高木層がありそこに草本層は生えていなかった。
5. 木と木の混み具合は低く光が地表まで届いている。

●Cグループ

1. 高木層:コナラ(2)・アカマツ(枯)(1)
2. 亜高木層:ヤブニッケイ(2)・タブノキ(1)・コナラ(2)
3. 低木層:ヒメアオキ(2)・サネカズラ・ヒサカキ・ヤブニッケイ(1)
4. 草本層:シダ

○調査結果から
1. 大きな枯れたアカマツが以前マツ優位だったと伝える。
2. 今はコナラ優位だが、亜高木層にヤブニッケイ・タブノキの常緑樹があり、本来の常緑樹林になっていく過程にある森。
3. 樹種は多い。
4. 湧水が流れているため草本層にはシダがあった。
5. 亜高木層から低木層に常緑樹があり林内は鬱蒼としている。

フィールド2 タブノキ・ヤブニッケイを中心とした常緑樹林

●Dグループ

1. 高木層:サクラ(1)・ヤブニッケイ(3)・タブノキ(1)・アカメガシワ(1)・クロマツ(枯2)
2. 亜高木層:ヤブニッケイ(5)・モチノキ(1)
3. 低木層:ヒサカキ・シロダモ・ネズミモチ
4. 草本層:ヤブラン・スゲ・ヒメアオキ・コマユミ・ヒイラギ・ネズミモチ・ムラサキシキブ・チャノキ

○調査結果から
1. ヤブニッケイを中心とする常緑樹林。
2. サクラ・アカメガシワの木は太くて大きく、ヤブニッケイ・タブノキが小さい頃に高木だった。その後、ヤブニッケイ・タブノキが生長してきて現在の姿になった。近い将来ヤブニッケイの優先する常緑樹林になると考えられる。
3. 草本層〜低木層に多種の植物があるが個体数は極少ない。地表まで光は十分届かず、植被率は低い。
4. A〜Cグループの調査したコナラ林より林内は暗い。
5. 亜高木層にヒサカキがあるのは雪の少ない三国ならでは。
6. 草本層のヒイラギは園芸用樹林であるが、公園や民家からの種が入ったものかもしれない。

フィールド3 松枯れ伐倒跡地

●Eグループ

1. 草本層:エノコログサ・ヨモギ・オニノゲシ・ワラビ・ササ・セイタカタンポポ(又はセイヨウタンポポ)・ハマベノギク・ヒメジョオン・マツ(切り株) 2. 高木層(調査枠外):クロマツ

○調査結果から
1. 調査枠の隣には20m近いマツが立っており、以前は調査枠内もマツ林だった。
2. 今は地上から1mの間にある草本層のみ。

●Fグループ

1. 草本層:ヨモギ・エノコログサ・オオバコ・テリハノイバラ

○調査結果から
1. 調査枠の外には20m近いマツが立っており、以前は調査枠内もマツ林だった。
2. 今は地上から1mの間にある草本層のみ。

皆さんお疲れさまでした! まったく違うタイプの三つの森を調査しました。これからどんな森づくりをしていくか、それを考えるための調査だったわけですが、今回の調査から何がわかったのでしょうか。講師の井上先生から講評をいただきました。

コナラをもった純林・タブノキのあるコナラ林(フィールド1)、タブの生い茂る林(フィールド2)から、マツの枯れた林(フィールド3)。今日は色んなタイプの林を調査しました。
フィールド1はもともとマツの林だったと思います。そのときマツの下には結構コナラが生えていたと思うんです。けれども放置してマツの上木が枯れてなくなるとコナラが元気を得て今の状態になったのでしょう。被圧されていた低木層の木が、ここの場合はコナラになったんですけども、さらにその下にはアオキ・シロダモ・ヤツデ・ボタノキ・ヒサカキのような小さな常緑の木も生えてきていますので、さらに変化する林だと思います。この林をずっとコナラにしていくには、林を更新していかなければならないと思います。 コナラ林はどうしたらいいのか。タブの林はどうしたらいいのか。決まった回答はありません。これから何回か集う機会があるので、そのときに感じたことをディスカッションして、考えていただくのが一番だと思います。

最後に三国湊魅力づくりPJ副理事長山崎一之よりご挨拶申し上げました。
こんな日は冬に一日あるかないかという天候に恵まれました。皆さん有り難うございました。今日の体験をもとにあと2回実践活動をしていく予定です。 4 月からは伐倒、植樹、維持管理をしていきたいと思います。この活動は誰か一人の力でどうにかなるものでも、一年や二年で何とかなるものでもありません。ですから、御協力をお願いするとともに、皆さん一人一人が主役だと思ってください。皆さんの求める森づくりを実現していきたいと思います。理想はアメーバのように広がっていく活動です。息の長い活動にしていきましょう。よろしくお願いします。

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