第二回 観光、光を観る事。/ 樋口裕一
2010.08.16 by mikuni.minato
波。
波を見ていた。
向こうでは漁師が暮れゆく海を眺めて彫刻の様に座っていた。
波は眠る赤子を揺らすように静かに打ち寄せては、夕日の深紅を乱反射させてゆく。
言葉の無い詩のような風景。
先日訪ねた大湊神社の宮司であられる松村忠祀さんが、観光とは光をよく見て感じることだとおっしゃっていた言葉を思い返す。観光案内に載るような名勝地でなくても、その土地の日常的な風景の中で、光や風や土や水などその土地の風土を肌で感じることが観光なのだと。短い時間にたくさんのスポットを周ることも刺激的で楽しいかもしれないけれど、じっと見つめる中で自分の内側から湧き上がって来るような感動は一味違うものだと思う。ただでさえ情報過多な時代なのだから、耳を澄ますような時間を大切にしたいと思う。
今回、僕が三国でアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)をすることになったのはアサヒビールさんが主催している全国各地のアートを絡めた町おこしを支援するというアサヒ・アート・フェスティバルという活動がありまして、三国湊魅力づくりプロジェクトではそれに参加して今年で四年目になるのですが、初めの二年は三国の文学を題材とした演劇がおこなわれました。去年からは現代美術作家に滞在制作を依頼して三国の旧市街地と云われる町並みの中に三国の文学とコラボレーションした作品を展示する「三国湊の路」というプロジェクトが進められていまして、今年はたまたま三国に滞在していた僕がひょんなところからその話を頂いたということで、只今日夜制作を行っている次第です。
といってもお話を頂いたときは三国のことはまだどこに何があるかも全くわからなかったのです。そんなではとても今回の役目は務まりません。まずは三国を知ろうということで、三国の町歩きを始めるところから始めることにしました。町々をあてどなく彷徨する中で、僕は観光をしたのであります。
続く…..